わが夢は星の彼方餓GAROU狼→小説

 

『Raven』





そこはスラムの一角。治安が極端に悪く、死体が転がっているのも珍しくない。
多くの宿の無い人間達は、その日を生き抜くのに必死になっている。
だから他人がどうなろうと、知ったことではない。

そんな場所を、1人の少年がふらふらと歩いている。

<……何故だ…頭が痛い、気分が悪い、体が熱い……>

「うっ…」
膝の力が無くなり、バランスを崩して倒れる。転んだ所には大きな水溜り。

<昨日雨が降った…から…>

びしょぬれになり、ふと体の異常の原因がわかった。それは雨の性だ。
雨の降りしきる中、それに構わずに歩いてきたから。
だから体温が下がり、疲労し、その相乗効果で風邪をひいたのだ。
ようやく、それに気付く。
「情けない、な…」
掠れた声で、自嘲気味に呟く。こんなことで風邪をひく体も、すぐそれに気付かない心も、彼をより不快にさせた。長い髪が顔に貼り付き、一層不快感を高める。

<何故ここに来ようと思った…?何故あんな雨の中歩いてきた…?ここに何がある…?>

自問。しかし答えはでなかった。

<もう、どうでもいい>

ろくに動くことができない。だったら動かなければいいだけだ。
…死ぬかもしれないが、別にこの世に未練なんて無い。
 
<……助けてもらえるなんて事は考えていない。そんなお人好しがこんなスラムに居るはずが無い。
 ……やはり死を待つしかないのか……?>

考えることも面倒になってきた。目を閉じようとした時、視界に何かが映った。
薄汚れたスニーカー。だれかが自分の前に立ったのだという事が判った。
そこまでだった。
彼は、意識を失った。



<俺は自由だ。誰にも縛られない。何をしようと誰も見ようとしない。……誰も見てくれない……
 自由。自由なんだ……>



ひどく悪い夢を見たような気がした。最初に思ったことはそれだった。

<生きている…>

次に思ったことがそれだ。まだ熱は下がっていない。体中が熱く、だるい。額にかかる赤い髪をかきあげる。
ぱさり、と何かが落ちた。手探りで『何か』をつかみ、目の前に持ってくる。
このスラムに不釣り合いなくらい、真っ白なタオル。彼の額を冷やしていたらしく、生温く湿っていた。

<誰が……こんなことを>

あたりを見回してみた。ぼろぼろになってはいるが、雨風をしのげる場所。おそらく廃ビルの一室だろう。
自分の下に敷かれていたのは端が擦り切れているマットレス。掛けられていたのは少し埃っぽい毛布。
誰かが倒れた彼を看病したということは、明らかだった。
……信じられない。こんな荒んだところに、人を助ける余裕がある人間が居るなんて。

<……………何を期待している?…………どんな見返りを求めている?>

「気が付いたみたいだな」
声のした方に顔を向ける。
彼と正反対の、青い髪と青い瞳を持った少年が、壊れかけたドアから入ってきた。 
歳は12、13歳くらいだろう。
「アンタ誰だ?」
掠れたままの声で、まず誰もが疑問に思うことを述べる。
「そうだな、自己紹介してなかったか。とりあえず<ルダ>って呼んでくれ」
「何故……こんなマネをする?俺は恩など…返せない……見返りは…ない、ぞ…」
「まだ寝てろって。治るモンも治んなくなるぞ」
彼を仰向けに寝かせると、額にかかった髪を全部払いのける。そして新しいタオルを置いた。
そこを軽く抑える様にして、諭すような口調で言う。
「恩とか見返りとかじゃなくて、ただ俺はアンタを助けたかっただけさ。…この辺って同じ年頃の子供があんまり居な いしさ…」

<…『友達になれるかな、と思った』なんて言ったら、バカにされるだろうなー…>

ルダは温くなった方のタオルを拾いつつ立ち上がると、
「とにかく!アンタの風邪が直るまで面倒見てやるよ。心配すんなって。なーんも期待してないから」
そう言って、部屋を出ていこうとする。
「あ、そうだ」
ドアの前で振り返る。
「アンタ、名前は?」
彼は当惑する。
「……ない……」
他人から名前で呼ばれたことなんてない。はっきり言って、彼には必要無いものだった。
「そうなの?じゃーさ<フリーマン>でどう?」
「…理由は?」
「寝言で自由がどうとか言ってたから」
「…………」
<見たのは…………自由な夢?>

「そんじゃな、フリーマン♪」
からかうように笑い、今度こそ部屋を出ていく。…静寂が訪れた。


「………なにも、期待、しない、で………」

<………何故そこまで他人に優しくできる?………>

理解不能だった。
「変な奴だ…」

だが、迷惑だとか、余計なお世話だという気持ちは特に起こらなかった。


<…………たまには独りじゃないことも……………>

<…………悪くは、ないかもしれない………………>


睡魔に囁かれ、眠りに付く前に、ふとそんな事を考えた。

                                         To be continued…
 

言い訳&コメント⇒ハーイ、シリアス長編、第一弾です。前半は苦しみましたが後半は鬼のような速さで書き上げ
           ることが出来ました。しかーし!なんだか名前決めるトコ、マイちゃんとグラっぽくなった気がし
           なくもない(……)しかし書いた私が言うのもなんだが、フリーマンは絶対風邪ひかなそうだ。
           あ、それとタオル額にのっけるシーン、ルダはフリーマンの素顔思いっきり見てますな(笑)
           とりあえず第二弾は…気力があるときに。誤字脱字のツッコミはほどほどにして下さい…
           (コンティニューのスペル違うかも…)