『埋葬』 透明の蓋のついた棺の前に、俺はただ立ちつくしていた。 そこに納められた、美しい骸を、己の目に焼き付けながら。 信じたく無かったのかもしれない。 認めてしまうのが、怖かったのかもしれない。 きみが、死んでしまった。などと。 俺の腕の中で、彼女・・マーヤは息を引き取った。 俺の腕の中で、暖かかったマーヤの身体が体温を失っていくのを感じた。 何故。 なぜ・・? 軽く自嘲する。 そんな事は、分かり切っている。 俺のせいだ。 俺が、自由と愛。自由を選んだから。 友との約束か、きみか。俺は、友との約束を選んだから。 あのとき、きみに怒られてでも、軽蔑されてでも、きみを選んでいたら。 今、どんな自分があるのだろう。 きみは死なずに済んだのだろうか。 自分の選んだ道に後悔はしていない。 これからも、己の信ずるままに生きていく。 だが、今。 少しだけ歩みを止めて、感傷に浸らせてくれ。 俺の頭の中を、きみの笑顔が掠める。 幸せだったあの頃の、ハイリュゲンシュタット。 きみには、花がよく似合った。特に、真っ赤な深紅のバラが。 いつも、日が暮れるまで一緒に居たね。 一緒にいる時間が、俺にとってのやすらぎの時間だった。 いつかの、約束。 星の海を、一緒に旅しよう。 父や先祖が、大空を自由に駆けた様に。 ともに、大宇宙を駆けめぐろう。 二人で大宇宙に夢を馳せた。 あの約束。 俺にはもう果たせないのだろうか。 生涯で一番守りたかった約束は、生涯でただ一度。守れなかった約束。 ―――いいか、ハーロック。 トチローの声が、俺を現実に引き戻す。 棺は発射台にセットされ、あのレバーが引き下ろされれば。 もう二度と、きみの姿を見る事は出来ないのだろうな。 俺は窓際に歩み寄り、目を閉じた。 黙っている俺の代わりに、隣にいたエメラルダスがトチローに頷く。 トチローはチラリと俺の方を見てから、レバーを引き下ろした。 カチッ。という機械音に、反射的に目が開く。 俺の左目に、星の海を漂う棺が映る。 ゆらゆらと遠ざかっていく、きみの骸。 俺はサーベルを構え、最後の挨拶を交わす。 きみの事を考えるだけで、言葉は詰まる事無く自然と出てきた。 ありがとう。 どれほど礼を言っても足りないぐらい。 沢山、きみに教えて貰った。 君の命の炎は、俺が預かる。 どこまでも、共に連れて行く。 時の環の接する所で、またあおう。 その時は、二度ときみを・・・・離しはしない。 誓いを胸に、俺は舵輪を握りしめた。 ――わが青春のアルカディア号、発進!! |
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